[式根島の漁業特集]密着取材!伝統のタカベ刺し網漁に迫る

東京都の離島・式根島でタカベ漁を行う最後の一隻「拓恵丸」。臨場感あふれる貴重なレポートをご覧ください。

夜光虫の銀河を分かち
一網にタカベをさらう
  式根の漁師の物語

目がよいタカベと知恵比べ

A battle of wits with the sharp-eyed Takabe.

タカベは式根島、いや伊豆諸島北部の島々にとって、なくてはならない魚です。房総半島以南~九州までの太平洋沿岸に分布し、伊豆諸島では大島から三宅島にかけて群れが回遊しています。日本固有のスズキ目タカベ科タカベ属に分類される1科1属1種の魚類で、大きさは20㎝~25㎝。独特のブルーの魚体に、黄金に輝く縦線が美しく映えます。


昔は大量に獲れた庶民的な魚でしたが、漁獲が減るにつれて価格が上がり、今や1匹1,000円以上、型がよければ2,000円も珍しくない夏の小さな高級魚として名を馳せています。目利きの魚屋、寿司屋や割烹料理店などでやっと出会えるほど、希少価値があります。

英名は「yellow striped butter fish イエロー・バター・ストライプ・フィッシュ」。バターという言葉が意味する通り、脂のりの良さが最大の特徴です。刺身や煮つけ、唐揚げと何でもおいしくいただけますが、持ち味が際立つのは最高峰と言われる「塩焼き」です。

伊豆諸島北部の島々では、古くから、このタカベ漁が行われてきました。かつて、新島や神津島でも追い込み漁が盛んでしたが、現在は御蔵島の「回し刺し網漁」と暗闇にまぎれて網を打つ式根島の「刺し網漁」が主に出荷されています。他の地域が日中に漁を行うことが多い中、式根島は夜間の操業となります。

刺し網漁とは、海中に、横に長い網を壁のように張り、魚体が網にからまる(刺さる)ことで捕獲する漁法です。

一般的な刺し網漁のイメージ

式根島におけるタカベの漁期は4月1日~9月30日です。目がよいタカベは明るい晩は網を見切るため、出漁のタイミングは旧暦二十日から翌十日までの新月周りに限定しています。旧暦では、「月が完全に見えなくなる日(新月/朔)」を1日と定めています。


それでは式根島のタカベ漁に出かけましょう。

取材協力

式根島漁師 百井 三亀男さん

HYAKUI MIKIO, The Shikinejima fisherman.

大学卒業後、進路に迷った結果、苦労をさせたくなかった父親の反対を押し切って式根島に戻り、漁師となる。

現在は、夏期のタカベをメインに、アカイカや伊勢海老など式根島に息づく伝統漁を行っている。

東京都産業労働局「これからも自分で決めた道を行く」

出漁

心地よい春の宵の18時頃。小浜港に6人の漁師たちが集まってきました。式根島に残るタカベ漁の最後の一隻「拓恵丸」に乗り込んで今年2回目の出漁です。式根島のタカベ漁は夕方に出港して、夜中に操業し、未明から翌朝に帰港するのが基本です。

まだ明るいので、完全な闇夜になるまで漁場に近い新島・若郷漁港に船をつけて時間調整します。本日は6人体制です。

魚群探知機の反応で
  タカベの群れを見抜く

式根の漁師が古くから縄張り(アンド)としている鵜渡根島につきました。タカベは瞬間的な光で群れを散らす習性があるので、灯りを落とした暗闇のなか、魚群探知機を頼りにタカベの群れを探します。

式根の漁師は、海中の地形とタカベの通り道を熟知しています。魚群探知機の反応の形で、海中の様々な魚群の中からタカベの群れを見抜きます。

タカベを見つけたら、船首で待機する漁師たちに合図をし、すばやく網を海中に投入します。網の長さは250m。水深30mの漁場に、10mほどの高さの網を垂直に仕掛けていきます。

その様子を見ながら、潮の流れやタカベの群れの向きとスピードに合わせて、追い込むように船体を操舵する技術が重要です。

式根の漁師言葉で、鵜渡根島の表(南側)の潮がぶつかってプランクトンが集まる場所を「マッケイ」、島の反対側で潮がぶつかる場所を「ケンミ」、満潮から干潮に向う潮を「オト潮」、反対に干潮から満潮に向う潮を「ニシ潮」と言います。

そして、タカベの主食である動物性プランクトンのカイアシ類は、暗く濁った潮から湧くと伝えられてきました。

やがて魚群探知機にタカベの群れの反応が見えなくなったタイミングで合図をし、すぐ網を引き上げていきます。

4人がかりで網を上げる

まん丸に膨らんだ姿形から、その美味しさが既にわかる見事なタカベです。

網を上げてからが時間との戦いです。タカベの鮮度が落ちないよう、手早く網から外していきます。タカベは網に突き刺さり、エラ蓋や胸びれが引っかかっています。漁師たちは大切な商品であるタカベの体に傷をつけないように細心の注意を払います。

網から外したタカベを一カ所に集め、大量の氷とともに、船倉に冷蔵保管します。

すぐさま、網を整えて、次の漁の準備に取り掛かります。

再び、タカベの群れを探し、2回、3回と漁を繰り返します。夜明けまで続けることも珍しくありません。

この日は深夜2時半ごろ、漁を終えて、野伏港に戻ってきました。拓恵丸を残して、一同は、トラックに道具をつんで小浜港に移動し、網をたたんで、いったん、解散しました。

この後、漁協が開く2時間後の5時に野伏港に再集合です。

タカベを選別し
最高の状態で出荷

野伏港にある漁協に着いたら、それぞれの持ち場に散って水揚げの準備をします。

氷、選別台、発泡箱、フォークリフト。それぞれが自分の作業に集中し、会話は最低限です。

タカベは4種類のサイズ別に5㎏ずつ発泡箱に並べ、氷を敷き詰め、封をして完成です。

1箱に入る匹数は25匹~35匹ほど。一番大きなタカベは「特大」の箱に収められ、最上級品となります。

準備ができたら、船倉からタカベを取り出し、フォークリフトで選別台に運びます。

流れ作業で箱詰め作業が始まります。

魚種、特大・大・中・小、傷物で分けていきます。

丸々と艷やかな旬のタカベ。

サイズ別に5kgずつに小分けして、発泡箱に氷詰めします。

この日の水揚げ量は450kg。上々です。

長く続いた黒潮の大蛇行が終わったことで、タカベ漁に明るい兆しが見えたのでしょうか。

今回取材させていただいた漁師の百井さんに尋ねると「一隻だからなんとかなるが、複数の船があったら資源を分け合うので、充分ではない。」という答えが帰ってきました。かつて、船団を組んでタカベ漁をしていた時代を念頭に置いてのことでしょう。

岐路に立つ伊豆諸島の網漁。東京の魚「タカベ」は、いつまでも「塩焼きの最高峰」としてあり続けることができるのでしょうか。


取材の動画はこちらをご覧ください。ぜひ音を出して、漁の息遣いを体験ください。

タカベの美味しい食べ方

タカベは4月~5月の「走り」に始まり、6月から秋の産卵期を迎えるまで「旬」として脂のりが最高潮に達します。皮目や内臓周りの脂の旨さは特筆もので、しっかりとしたコクと甘みが感じられます。 一口食べればハッとするタカベならでは魅力があります。式根島の漁師に教わった塩焼きの方法など、タカベの魅力を引き立てるおいしい食べ方をご紹介します。

タカベ定食

塩焼き

タカベは塩焼きの最高峰です。ただし、焼き方にコツがあります。タカベは脂が強いため、振り塩では身に塩味が入りきりません。式根島の漁師・百井さんに美味しい塩焼きの作り方を教えてもらいました。まず、タカベはうろこをとり、その身に塩を優しくすり込んで、冷蔵庫で2~30分置いてから焼く「当て塩」という調理技術を使うとよいそうです。

タカベは内臓の周りの脂肪に旨味があります。網漁でとったタカベはコマセや餌を食べていませんので、内臓を取らずに焼いて、にじみ出た脂に身をまぶしながら味わうのが格別です。

タカベの塩焼き

煮つけ

タカベの煮魚は脂が溶け出して透明な層がたっぷりできるほど。コクと甘みのある絶品に仕上がります。身に味がしみにくいので、やや濃いめに仕上げるとよいでしょう。

タカベの煮つけ

炙り刺し

新鮮なタカベは刺身でも美味しくいただけます。皮目の脂が美味しいのでさっと炙った「炙り刺し」が格別です。

タカベの炙り刺しがメインの盛り合わせ

背越し

タカベの腹骨、中骨を除いた状態で、小骨をつけたまま筒切りにして食べる方法です。もちっとした柔らかな身に小骨がアクセントになる漁師料理です。

タカベの背越し造り

式根島産のタカベと出会ったら、ぜひお味見いただければ嬉しいです!

オマケ:船に乗ってきたカンムリウミスズメ
(逃がしてあげました)

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