式根島のメインアクセスを担う東海汽船は、舷門を閉じないままの航行や飲酒問題等の指摘を受け、国土交通省より3隻の使用停止命令を受けました。そのため、式根島への航路は10月9日から28日まで代替輸送で行われます。式根島にとっても大きな影響が発生した一連の問題と運航への影響、再発防止策をまとめます。

東海汽船社長のノーカットコメント

今回東海汽船が受けた行政処分の概要

  1. 処分日: 2026年10月2日
  2. 処分内容: 海上運送法に基づく船舶の使用停止命令
  3. 対象船舶:
    • 橘丸(大型客船)
    • セブンアイランド結(高速ジェット船)
    • セブンアイランド友(高速ジェット船)
  4. 使用停止期間: 2026年10月9日 〜 10月28日(20日間)
    ※東京発夜行便は 10月8日(木)夜発便から代替ダイヤが適用 されます。

違反事実と不祥事の概要

関東運輸局による立入検査の結果、安全管理規程および法令違反として全13項目もの違反事実が認定されました。現場の怠慢だけでなく、記録の偽装や国への報告怠慢、教育の放棄など、運航体制全体が破綻していた実態が浮き彫りになっています。

大きく分類すると以下の4カテゴリ・13項目です。

A. 舷門(扉)の未閉鎖航行と検査記録の偽装(6項目)

事例:式根島ー神津島舷門開放航行(2025年12月24日)
「さるびあ丸」が式根島を出港する際、乗降口である左舷の油圧式舷門が故障により自動で閉まらなくなりました。船長は「電磁弁や非常用手動ポンプを使えばすぐに閉められる」と判断し、扉が開いたままの状態で船を離岸させました。しかし、会社が手動ポンプの操作教育を行っていなかったため、乗組員は誰も閉め方が分からず、結果として神津島に到着するまで扉が完全に開放されたまま航行しました。船長は発航の可否に関わる重大な異常であるにもかかわらず、神津島に到着するまで運航管理者へ報告を怠り、独断で航行を継続しました。

舷門
  1. 作業手順違反:大型貨客船において舷門を完全に閉鎖しないまま離岸・航行することが常態化していた。
  2. 発航前検査の形骸化: 乗降タラップが架かったまま発航前検査を終わらせ、出航することが常態化していた。
  3. 点検記録の虚偽記載: 舷門が閉まっていないことを認識しながら、検査簿の「乗降用設備」欄に適合を示す「○」を書き込んでいた。
  4. 船内巡視の手抜き: 航行中の船内見回りにおいて、記録簿に確認項目すらなく、舷門が閉まっているかの確認を長年怠っていた(2025年11月の東京〜大島間の未閉鎖航行も見逃された)。
  5. 船長から運航管理者への連絡怠慢: 式根島出港時に扉が閉まらない重大な異常が起きていたにもかかわらず、神津島に着くまで運航管理者へ報告しなかった。
  6. 国(運輸局)への重大インシデント報告怠慢: 舷門を開けたまま運航した計2回のインシデントについて、法律で定められた運輸局への速やかな報告を行っていなかった。

B. アルコール検査の不正と飲酒当直(3項目)

事例:替え玉受検(2026年4月25日)
高速ジェット船「セブンアイランド結」において、二等航海士が前夜の飲酒によるアルコール検出と出航停止を恐れ、後輩の三等航海士に検知器への呼気吹き込みを代行させ、検査を偽装しました。船長が吹き込みを目視確認していなかったため偽装が見逃され、二等航海士はその後の自主検査で0.10mg/Lが検出されたにもかかわらず、船長に報告しないまま航海当直を務めました。

事例:元日の船内飲酒と酒気帯び当直(2026年1月1日)
 「さるびあ丸」「橘丸」の両船において、旅客運送中にもかかわらず長年の慣行として正月のお神酒や新年会名目で船内飲酒が行われました。橘丸では船長が操舵室(ブリッジ)でお神酒やビールを飲んだほか、当直中の機関士が昼食時に飲酒し、検査を受けずに再び当直に就いていました。事後計算(ウィドマーク法)の結果、船長を含む複数人が基準値(呼気1リットル中0.15mg)を大幅に超える状態で、検査も受けずに航海当直に就いていたことが判明しました。

  1. 全社的な検査体制の形骸化: 替え玉受検のほか、出入港の持ち場に就く際の検査未実施など、検査体制そのものが崩壊していました。
  2. 旅客運送中の船内飲酒と当直勤務: 旅客運送中に船内ぐるみで飲酒を行い、飲酒後時間をおかず、検査も行わないまま航海当直に就いていました。
  3. 検査記録の不実記載(ゼロ記載): 普段酒を飲まないと申告した船員に対し、実際には検査をしていないのに数値を「0」と虚偽記載することが日常化していた。

C. 安全教育・訓練の放棄(1項目)

  1. 必要な安全教育の未実施: アルコール検知器の正しい使い方や検査の重要性を教育していなかった。また、大型船の舷門が故障した際に使う「非常用手動ポンプ」の作動方法や手順を乗組員に訓練していなかった。

D. 経営トップ・管理者の職務不履行(3項目)

  1. 経営トップ(社長)の主体的関与の欠如: 社長自ら正月飲酒の慣行を知りながら放置し、安全最優先の管理態勢を運営していなかった。
  2. 安全統括管理者の職務不履行: アルコール検査の形骸化や現場のルール違反を把握・是正できていなかった。
  3. 運航管理者の職務不履行: 舷門を開けたまま離岸する現場の運用や、手抜き巡視の実態を把握・是正できていなかった。

組織的要因(特別調査委員会の指摘)

  • 経営層の主体的関与の欠如
    社長自ら正月飲酒の慣行を認知し費用(潤食費)を支給しながら、安全上のリスクとして評価・管理せず放置した。
  • 安全統括機能の構造的形骸化
    本来ブレーキ役となる安全統括管理者が、時間通りに運航を行う責任者の船舶部長(運航執行部門)を兼務していたため、独立した立場から点検・是正しにくい体制だった
  • 独占航路ゆえの甘え
    競合他社が存在しない生活航路としての「前例踏襲」が常態化しており、さらに5〜10分という短い停泊時間内で出航させるため、安全手順を省略する手抜き作業が日常化していた。
  • 対症療法の限界
    2025年の行政処分後も「書類上の対策」にとどまり、現場の実際の運用を検証する仕組みが機能していなかった。

今後の再発防止策と検証スケジュール

東海汽船が提出した改善計画および是正報告書に基づく主要施策は以下の通りです。

改善項目実施時期
組織・ガバナンス体制の刷新
・安全統括管理者と船舶部長の兼務を解消し、社長直轄へ変更
・運航管理者を複数体制化し、海事行政の外部専門家を顧問に招聘
2026年9月実施済
アルコール管理の機械化
・全船に「顔認証型アルコール検知器」を配備(結果・ログを陸上へ自動送信)
・正月船内飲酒の完全禁止、業務開始6時間前からの禁酒徹底
2026年6月導入済
10月中ルール策定
出航・巡視手順の是正
・舷門閉鎖を確認・船橋へ連絡するまで離岸しない手順へ厳格化
・陸上社員による抜き打ち乗船確認の継続実施
実施済・継続中
内部通報・外部検証
・会社から独立した第三者による外部相談窓口の開設
・外部の専門家による安全管理体制の第三者検証
2026年10月〜12月
透明性の確保と情報開示
・客室へのQRコード設置による利用者意見の収集
・安全のPDCAと課題を開示する「安全報告書」の公表
2026年12月設置
2027年3月末公表

式根島航路への具体的な影響

① 旅客輸送への影響

  1. 夜行客船(くろしお丸が代行運航)
    • 運航船: 伊豆諸島開発「くろしお丸」(定員200名)
      通常配船される「さるびあ丸」(定員693名)と比べ、旅客定員が3分の1以下に減少します。
    • 下り便(東京発): 東京 23:00発 → 式根島 翌朝9:00着
    • 上り便(島発): 式根島 11:15発 → 東京 19:50着
  2. 高速ジェット船(セブンアイランド大漁が運航)
    • 運航船: 東海汽船「セブンアイランド大漁」(定員254名)
    • 下り便(本土→島): 東京 7:40発 → 式根島 10:50着(直行便)
    • 上り便はなく下り便利用(島→本土): 式根島 10:55発 → 神津島経由 → 熱海 13:25着
      ※本土直行便は熱海着となります。東京へ向かう場合は大島での乗り継ぎ等が必要になります。

② 貨物輸送・生活物資への影響

「くろしお丸」と貨物船(第18清光丸、第28福寿丸)の併用により月間輸送量は維持されますが、輸送スケジュールに制限が生じます。

  1. 水曜日の生鮮品受付中止
    10月7日、14日、21日、28日の毎週水曜日は、東京発の生鮮食品の荷受けが中止されます。
  2. 保冷コンテナの輸送頻度
    • 冷凍品コンテナ: 式根島行きは週4回輸送
    • 冷蔵品コンテナ: 週5回輸送(水曜日・日曜日を除く)
  3. 配送遅延の発生
    一部物資は貨物船に振り分けられるため、通常より1〜3日程度の遅れが生じる場合があります。
  4. 受託手荷物の制限
    代替運航期間中、寄港地での受託手荷物受付が一部制限されるため、手荷物は各自船内への持ち込みが必要です。

③来島者の具体的な影響

  1. 予約確保の難易度UPと旅程の変更要請
    • 秋の行楽シーズンと重なる中、夜行客船・ジェット船ともに提供座席数が大幅に減少します。
    • すでに予約している場合でも、発着時刻や乗船船舶の変更、便の振替や乗り換えが要請されます。
  2. 現地滞在時間の短縮・ルート制約
    • 高速船の運航便数や寄港順序が変わるため、通常ダイヤに比べて島での滞在可能時間が短くなる便が発生します。
    • 高速船は熱海行きなので、竹芝に直通で帰れません。大島で乗り換える必要があります。
    • 従来より時化に弱く、日帰り旅行や週末を利用した短期滞在の自由度が低下します。
  3. 受託手荷物(大型荷物)の取り扱い制限
    • 一部寄港地において受託手荷物の受付が行われません。ダイビング器材、釣り具、大型スーツケース、輪行自転車などを預けられず、自身で船内に持ち込んで管理する必要があります。
  4. 従来より厳しい環境の中型客船くろしお丸の夜行便
    代行運航を行う「くろしお丸」は2022年就航の比較的新しく綺麗な船ですが、もともと日中の近海航路を想定した船であり、夜行便としての利用には以下の注意が必要です。
    1. 総トン数は約500トン(493トン)で、普段運航している「さるびあ丸(約6,000トン)」の12分の1以下のサイズです。外洋のうねりや時化の影響をダイレクトに受けるため、通常以上の激しい揺れが予想されます。酔い止め薬の準備など十分な対策が必要です。
    2. 客室は「椅子席」または「じゅうたん席(和室)」のみで、特一段・特二段のような個室やベッド席はありません。また、レストランや売店はなく、船内の自動販売機も夜行便を想定した食品類はなくソフトドリンク飲料のみとなります。夜食や朝食は事前に本土側で購入して持ち込む必要があります。
東海汽船くろしお丸説明ページより引用

東海汽船行政処分の影響アンケートについて

新島村議会 小久保利佳議員が使用停止期間中に、新島・式根島の暮らし、仕事、観光にどのような影響があったのか、実際の声を集めるためのアンケートを実施しています。

「島民の皆さんから寄せられる声を、噂話で終わらせず、きちんとした記録として残したい。その思いからこのアンケートを実施します。集まった声は、国土交通省や東海汽船、島の外の方々に島の実情を伝えるための根拠として活用します。」とのことです。アンケートは以下のGoogleフォームで回答できます。

編集後記

「切っても切れない伊豆諸島と東海汽船の絆」

東海汽船を、単なる「交通インフラ事業者」として見ている島民はいないと思います。

東海汽船や関係会社のスタッフには、伊豆諸島出身者や島にゆかりのある方が少なくありません。時化の日に島の暮らしを案じて舵を握り、外洋の厳しい荒波やうねりの間隙を突いて、ねじりこむように荷を届ける現場の姿は、島民にとって日々の暮らしを支える「身内」であり、いざという時、本気で助けてくれる「救世主」として信じられる存在でもありました。そうした気概と誇りの積み重ねが、137年という歴史を支えてきたはずです。

だからこそ、今回明らかになった「命を預かる責務」と「実際の現場」の間に、これほどの乖離があったことに残念な思いが募ります。

10月9日からの船舶使用停止期間中、便数の減少や貨物輸送の制限が生じます。通院や食料品、建材の調達、商店の仕入れ、そして秋の観光に直結します。「船が止まれば生活が立ち行かない」という離島の現実を、会社全体で今一度重く受け止めていただきたいと感じています。

伊豆諸島の島々にとって、東海汽船は「代わりのいない」唯一無二のライフラインです。だからこそ、今回の処分を一過性の反省や謝罪で終わらせてはなりません。「安全最優先」を貫ける組織へと生まれ変われるかどうかが問われています。

全国から後ろ指を指される姿は、もうたくさんです。島民が誇りにする日本一の黒潮の覇者に立ち返っていただきたい。式根島マガジンとしても、今後の取り組みと運航の姿を、期待を持って注視し続けていきます。

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