くさやとは
くさやとは、新鮮な魚を「くさや液(くさや汁)」と呼ばれる特殊な発酵液に1〜2日間漬け込み、その後、天日などで乾燥させた特殊な発酵食品です。
伊豆諸島では暮らし・風土に根付いた伝統的な保存食で、なかでも発祥の地と言われる新島は国内生産量トップを誇ります。式根島は1886年にお隣の新島から移住した人々が開いた島ですから、基本となる文化は新島と同じです。

普通の干物とくさやの違い

干物(塩干品)とくさやは見た目は変わりありませんが、別物です。違いは、主に以下の3点です。
- 漬け込む液と塩分濃度の違い
干物は塩分濃度約18〜20%の新鮮な塩水を使用しますが、くさやは塩分濃度約6〜8%の数十年~数百年以上、塩水を継ぎ足し続けた発酵液を使用します。 - 微生物「くさや菌」の働きで旨味が熟成
干物は乾燥により旨味を濃縮しますが、くさやは微生物(くさや菌)がタンパク質を分解し、発酵することで旨味を熟成します。 - 豊富な旨味成分と独特な風味
くさやは発酵により、干物よりアミノ酸やグルタミン酸を多く含み、強烈で独特な風味と臭いがあります。
くさやの誕生
くさやの製法は室町時代からあったとも言われますが、広く産業になったのは江戸時代です。「くさや」という名前になったのは明治の末頃で、それまではくさやを浸す液を「ショッチル」、くさやそのものは塩汁干し(ショッチルボシ)と呼んでいました。
もともと、伊豆諸島では干物の原料になるムロ(アオムロ・ムロアジ)やサバ、イワシ、トビウオなどがよく穫れ、保存食品として加工する必要がありました。干物に使用する塩は当時、幕府への上納品であり、水も貴重だったので、繰り返し同じ塩水で魚を漬けたところ、独特の臭いがあるものの、食べれば美味しく、日持ちもよくなることから、食文化として定着していったと考えられます。
現在くさやが作られているのは、大島、新島、式根島、神津島、三宅島、八丈島で最も生産量が多いのは新島となっています。それぞれの島は、その環境でくさや菌が活動するのに適した管理を経験則的に熟知して製造していました。

こちらは新島の伝統的なくさや作りの動画です
式根島のくさやづくりと現在
式根島は明治から昭和の戦前まで、多くの家が漁業で生計を立てていました。それぞれの家は、ぬか床のように、代々管理するくさや液を持ち、アオムロやトビウオが大漁となった日は、女衆は徹夜で魚の腹を開いて、加工に追われたものでした。くさやは日々の食事のおかずだけでなく、島外に出荷する重要な産物でもあり、貴重な現金収入でした。
しかし、戦後、式根島の産業は漁業中心から、民宿経営など観光業に転換していきました。くさやは、くさや液に、継続的に魚を入れて適度にかき混ぜながら作り続けなくてはならず、連続して入れすぎるとくさや液が悪くなるなど管理が大変です。大々的なくさやづくりは昭和30年代に不漁が続いたことで終わり、自家用のくさや作りも、メインのおかずがくさやだった時代から食生活が変化してきたなどの理由で廃れていきました。
現在、式根島で継続的にくさやを製造しているのは数軒と推測されます。そのうちの一軒が、ゲストハウスひだぶんです。宿泊客はくさやを単品で注文できるため、島焼酎と合わせて楽しんでいます。
ただ、式根島の島民がくさやを好むことは変わっていません。新島のくさやをお取り寄せをして個人で楽しんでいるほか、贈答品として重用しています。なお、最近は堅干しより、軽く干した程度の「ベタ」とよばれる瑞々しいタイプのくさやが人気があります。日持ちはしませんが、あっさりしていて食べやすいので、初心者にもおすすめです。
くさやの原材料の魚
式根島でくさやにされる魚は、一番多いのはアオムロ(クサヤモロ)で、次にムロアジ。昔はよく穫れたトビウオなどです。



式根島ではウツボを「ウナギ」と呼んで食べる文化がありましたが、このウツボのくさやも珍味です。


家庭用のくさやの作り方
式根島のゲストハウスひだぶんは漁師の家系で、代々守り伝えられたくさや液が現存しています。実際の式根島の家庭で作られているくさやの作り方をご紹介します。
- 原材料の魚を調達する

干物・くさやサイズ - 魚のうろこを落として腹を開き、内臓をとる

- 水で洗って血合いを掃除する

- くさや汁につける

- 取り出して水で洗う

- 陰干しし、好みの干し加減で出来上がり

ムロアジの開き方の動画はこちら
くさやの食べ方
焼いて食べる
やはり、一番美味しいのは焼いたくさやをアツアツのうちに食べやすくむしって、醤油やマヨネーズ、一味などで食べること。ご飯のおかずにも、酒の魚にもなります。

くさやパスタ
くさやはアンチョビのようなものですから、パスタやピザにもアレンジできます。こちらは、明日葉とくさや、アクセントに長芋を入れて作ったペペロンチーノです。

くさや風味の温やっこ
くさやを漬けた汁はしょっつるやナンプラーに近い風味です。こちらをほんの数滴と醤油と合わせて島唐辛子を入れたタレを温やっこにかけました。

お土産にくさやをどうぞ
島内のお土産店や商店で、新島産のくさやを販売しています。そのまま食べられる焼いてほぐしてあるタイプが人気です。島でのおつまみや、お土産にどうぞ。
参考文献
伝統食品の研究 (10) /出版者: 日本伝統食品研究会/出版年月日:1991-12 伝統食品に関する講演会記録/伊豆諸島のクサヤ / 藤井建夫/
伊豆諸島東京移管百年史 別刷 (新島編)/著者:伊豆諸島東京移管百年史編さん委員会 編/出版者:東京都島嶼町村会/出版年月日:1981.3
東京都産業労働局TOKYOイチオシナビ地域資源紹介「東京のくさや」
式根島開島百年史/著者:式根島開島百年を記念する会 編 /出版者:新島本村/出版年月日:1987.5






