変異の大きいスミレ

スミレを同定するには、地上茎の有無(茎から枝分かれして花柄や葉が出ているか、それとも根本から直接出ているか)や、葉の形、花の色、花の後ろに突き出た距の形、柱頭(雌しべ先端)の形、側弁(柱頭両脇の花弁)に毛があるかどうかなどなど、多くの形質を確認します。ところがアツバスミレの場合は、和名の通りつやつやした厚い葉をもつことだけは共通していますが、葉の形にも花の色にも変異が多く、側弁の毛の有無さえ個体によって異なります(トップの写真の側弁は無毛)。伊豆諸島に分布しているスミレの中で他に当てはまるものがないから良いようなものの、写真を撮るごとに「…本当にアツバスミレかな」と、私のなけなしの自信が揺らいでいきます。

母種であるスミレ V. mandshurica と同様にアツバスミレも、コンクリートやアスファルトの隙間からたくましく咲きます。しかし式根島のアツバスミレは母種よりも全体的に花の丈が低く、花は大きく開き、花期の葉は短くずんぐりしている印象です。

スミレの仲間は花期が終わると草丈が伸びたり葉が大きくなって、葉の形も少し変わる場合があります。式根島のアツバスミレも花期が終わると葉は大きくなり、triangularis(三角の)という変種名にふさわしい三角形の葉が増えてきます。

紀伊半島や九州南部の太平洋岸、瀬戸内海岸、小笠原諸島でもアツバスミレの記録がありますが、ここでは分布域は門田(2016)に拠りました。

和名アツバスミレ
学名Viola mandshurica W.Becker var. triangularis (Franch. et Sav.) M.Mizush.
分類スミレ科 Violaceae
大きさ草丈 5~8 cm程度、花期の葉は長さ3〜5 cm
好む場所砂浜、岩場、海岸付近の林縁や路傍
式根島で見られる場所島内いたるところの道沿い
分布房総半島、三浦半島、伊豆半島、伊豆諸島

参考文献

いがりまさし(2004) 「アツバスミレ」in『山渓ハンディ図鑑6 増補改定 日本のスミレ』増補改定第2版(山と渓谷社)pp. 128-129.

門田裕一(2016) 「スミレ」「アツバスミレ」in『改訂新版 日本の野生植物 3』平凡社 p.217.

米倉浩司・梶田忠 (2003-) BG Plants 和名-学名インデックス(YList),http://ylist.info(2026年6月11日閲覧)

いいじま あきこ

こんにちは。神田外語大学で環境科学と生物学を教えている飯島明子です。学生のころ巻貝の調査で通った式根島に、また訪れるようになりました。島での私のあだ名は「シッタカの姉ちゃん」(磯にすむ小さな巻貝を島ではシッタカと呼びます)。式根島の生き物を紹介しています