式根島をこよなく愛する飯島明子教授の式根島に暮らす生物植物図鑑

固いカキの柔らかな中身の話


「カキは食べ物」と思っている人は多いと思います。オハグロガキは食用にするにはいささか小さく、そのためか磯でもあまり着目されていないようです。しかしその生き方は不思議な魅力に富んでいます。

オハグロガキは岩にぴったりとくっつき、固着した場所から一生動きません。食べ物は、海水中のプランクトンや懸濁有機物です。満潮で水中に没しているときに海水を吸い込み、鰓で濾過して食べています。

カキの殻を開けて軟体部を観察すると、軟体部全体を覆う膜があり、殻の縁近くでは黒っぽくフリルになっているのが分かります。これが外套膜で、新しい殻の元となる物質を分泌し、先端に殻を付け加えて成長します。その際、カキはこの殻のできつつある部分に外套膜の縁を押し付けていて、この押し付け行動がないと固着できない、ということが分かっています。ただ岩にくっついているだけのように見えるオハグロガキですが、外洋の磯で岩にしがみついて成長するためには、殻の中で柔らかい外套膜をせっせと動かしているのでした。

オハグロガキは初夏から秋にかけて生殖腺が発達し、水中に放卵放精します。驚いたことに、オハグロガキは性転換、それも双方向性転換することが明らかになっています。つまり雄から雌へ性転換するものも、雌から雄へ性転換するものもいる、ということです。雌の方が体が大きい傾向はあるものの、雌雄のサイズはオーバーラップしているので、「殻長何 cmになったら雌になる」という問題ではないようです。何がきっかけで性転換するのか、現在のところ調べても分かりませんでした。今後の研究が待たれます。

DATA

和名オハグロガキ
学名Saccostrea mordax (A. A. Gould, 1850)
分類軟体動物門 Mollusca
二枚貝綱 Bivalvia
カキ目 Ostreida
イタボガキ科 Ostreidae
大きさ8 cm程度になる
好む場所外洋に面した岩礁潮間帯の岩上、大潮干潮で完全に干出するところ
式根島で見られる場所岩のある海岸ならどこでも
分布紀伊半島〜沖縄、伊豆諸島、小笠原諸島、台湾、オーストラリア、アフリカ

参考文献

中鉢正美、堀越增興(1942)伊豆式根島貝類採集記。Venus, 12(1-2), pp. 106-110.

速水 格(2000)「オハグロガキ」 in 『日本近海産貝類図鑑』奥谷喬司 編、東海大学出版会p.925

岩崎敬ニ(2016)御蔵島港潮間帯の底生無脊椎動物。Mikurensis(みくらしまの科学), 5, pp. 15-23.

MolluscaBase eds. (2026). MolluscaBase. Saccostrea mordax (A. A. Gould, 1850). Accessed through: World Register of Marine Species at: https://www.marinespecies.org/aphia.php?p=taxdetails&id=819190 on 2026-05-31 (2026年6月7日閲覧)

佐々木哲郎、立川浩之、向 哲嗣、栗原達郎(2015) 小笠原諸島兄島および父島の軟体動物相の現況。Ogasawara Research, 41, pp. 41-73.

山口啓子(1996)固着性二枚貝カキ類の殻形成と固着機構。化石研究会会誌、29(1), pp. 18-24.

Yasuoka, N., Yusa, Y. (2017) Direct evidence of bi-directional sex change in natural populations of the oysters Saccostrea kegaki and S. mordax. Plankton Benthos Res., 12(1) pp. 78-81.

いいじま あきこ

こんにちは。神田外語大学で環境科学と生物学を教えている飯島明子です。学生のころ巻貝の調査で通った式根島に、また訪れるようになりました。島での私のあだ名は「シッタカの姉ちゃん」(磯にすむ小さな巻貝を島ではシッタカと呼びます)。式根島の生き物を紹介しています