
オハグロガキ

潮間帯の岩に固着するカキの仲間。岩に密着している方が左殻、上になっている方が右殻。大きくなってくると、左殻の縁が上へと立ち上がり、全体的に餃子のような形になる。左殻と右殻の合わせ目は黒紫色で波打ち、ぎざぎざの歯が咬み合っているように見える。殻の内側は白く艶がある。
固いカキの柔らかな中身の話
「カキは食べ物」と思っている人は多いと思います。オハグロガキは食用にするにはいささか小さく、そのためか磯でもあまり着目されていないようです。しかしその生き方は不思議な魅力に富んでいます。
オハグロガキは岩にぴったりとくっつき、固着した場所から一生動きません。食べ物は、海水中のプランクトンや懸濁有機物です。満潮で水中に没しているときに海水を吸い込み、鰓で濾過して食べています。
カキの殻を開けて軟体部を観察すると、軟体部全体を覆う膜があり、殻の縁近くでは黒っぽくフリルになっているのが分かります。これが外套膜で、新しい殻の元となる物質を分泌し、先端に殻を付け加えて成長します。その際、カキはこの殻のできつつある部分に外套膜の縁を押し付けていて、この押し付け行動がないと固着できない、ということが分かっています。ただ岩にくっついているだけのように見えるオハグロガキですが、外洋の磯で岩にしがみついて成長するためには、殻の中で柔らかい外套膜をせっせと動かしているのでした。
オハグロガキは初夏から秋にかけて生殖腺が発達し、水中に放卵放精します。驚いたことに、オハグロガキは性転換、それも双方向性転換することが明らかになっています。つまり雄から雌へ性転換するものも、雌から雄へ性転換するものもいる、ということです。雌の方が体が大きい傾向はあるものの、雌雄のサイズはオーバーラップしているので、「殻長何 cmになったら雌になる」という問題ではないようです。何がきっかけで性転換するのか、現在のところ調べても分かりませんでした。今後の研究が待たれます。
DATA
| 和名 | オハグロガキ |
| 学名 | Saccostrea mordax (A. A. Gould, 1850) |
| 分類 | 軟体動物門 Mollusca 二枚貝綱 Bivalvia カキ目 Ostreida イタボガキ科 Ostreidae |
| 大きさ | 8 cm程度になる |
| 好む場所 | 外洋に面した岩礁潮間帯の岩上、大潮干潮で完全に干出するところ |
| 式根島で見られる場所 | 岩のある海岸ならどこでも |
| 分布 | 紀伊半島〜沖縄、伊豆諸島、小笠原諸島、台湾、オーストラリア、アフリカ |




参考文献
中鉢正美、堀越增興(1942)伊豆式根島貝類採集記。Venus, 12(1-2), pp. 106-110.
速水 格(2000)「オハグロガキ」 in 『日本近海産貝類図鑑』奥谷喬司 編、東海大学出版会p.925
岩崎敬ニ(2016)御蔵島港潮間帯の底生無脊椎動物。Mikurensis(みくらしまの科学), 5, pp. 15-23.
MolluscaBase eds. (2026). MolluscaBase. Saccostrea mordax (A. A. Gould, 1850). Accessed through: World Register of Marine Species at: https://www.marinespecies.org/aphia.php?p=taxdetails&id=819190 on 2026-05-31 (2026年6月7日閲覧)
佐々木哲郎、立川浩之、向 哲嗣、栗原達郎(2015) 小笠原諸島兄島および父島の軟体動物相の現況。Ogasawara Research, 41, pp. 41-73.
山口啓子(1996)固着性二枚貝カキ類の殻形成と固着機構。化石研究会会誌、29(1), pp. 18-24.
Yasuoka, N., Yusa, Y. (2017) Direct evidence of bi-directional sex change in natural populations of the oysters Saccostrea kegaki and S. mordax. Plankton Benthos Res., 12(1) pp. 78-81.
書いた人

こんにちは。神田外語大学で環境科学と生物学を教えている飯島明子です。学生のころ巻貝の調査で通った式根島に、また訪れるようになりました。島での私のあだ名は「シッタカの姉ちゃん」(磯にすむ小さな巻貝を島ではシッタカと呼びます)。式根島の生き物を紹介しています
