
ハマゴウ

砂浜に生える落葉小低木。茎は砂の中を長く這う。斜めに立ち上がる枝には、広卵形〜楕円形の葉が対生する。葉は厚みがあり、裏側には微細な毛が密生して粉を吹いたように灰色を帯びる。茎の先端に円錐花序(花の集まり)をつけ、夏、美しい紫色の花を咲かせる。晩秋の葉は紫がかった色に紅葉し、落葉する。全体に爽やかな芳香があり、昔の人はタンスに枝を入れて衣類に香りを移したり、乾燥した実を枕に詰めてリラックス、安眠対策に役立てていた。乾燥した実は漢方で「蔓荊子(まんけいし)」といい、鎮静・消炎薬として用いられる。
旅するハマゴウ
ハマゴウ属は熱帯や亜熱帯に多い植物で、その中で本種ハマゴウは温帯まで広く分布します。以前は本州以南に生育すると言われていましたが、2020年に北海道南部で新たに北限個体群が記録されました。
式根島では砂浜に降りようとするとハマゴウの茎が長々と伸びていて、足を取られそうになります。びっしりと密生するため、飛砂を防ぎ砂質を安定化させる役割もあるようです。とはいえ津波などの甚大な災害では、砂浜ごと消失することもあります。岩手県では1960年のチリ沖地震による津波で、宮城県では2011年の東日本大震災で、一度はハマゴウが地域絶滅しました。岩手県でも宮城県でもその後再発見されましたが、岩手県では2023年に過度な砂浜整備によりまた姿を消してしまったとのことです。両県とも本種を絶滅危惧I類に指定しています。
しかし適度な砂浜さえあれば、他の地域から果実が流れ着いて、個体群は復活すると思われます。ハマゴウの果実は中果皮がコルク質で水に浮かび、少なくとも30日間は発芽率が下がらないまま浮き続けるため、海流で長距離分散すると考えられています。
果実が海流で分散し、適度な砂浜さえあれば生育するハマゴウは、自然分布していない地域に人間が持ち込んだ場合、外来種として猛威を振るうことがあります。アメリカでは1989年の大型ハリケーンによって、ノースカロライナなど大西洋岸で砂丘の消失をともなう深刻な海岸侵食が起きました。砂丘が復旧されたとき、砂質の安定化と海浜植物による景観の向上をめざしてハマゴウを植えてしまったため、これが増えて、アメリカ南東部の海浜生態系を脅かす存在になっているということです。 もともとその地域や近傍に生えていない植物を持ち込むことは、後々重大な被害を引き起こすことになりかねない、ということをハマゴウは教えてくれています。
DATA
| 和名 | ハマゴウ(浜栲・浜香) |
| 学名 | Vitex rotundifolia L.f. |
| 分類 | シソ科 Lamiaceae(旧クマツヅラ科) |
| 大きさ | 茎は数m、枝は高さ30〜70 cm。葉は長さ3〜6 cm、円錐花序は4〜6 cm、花冠(1つ1つの花)は長さ12〜16 mm |
| 好む場所 | 日当たりの良い海岸砂丘、礫地の上部 |
| 式根島で見られる場所 | 石白川海岸、釜下海岸、大浦などの砂浜・砂礫浜やその近くの道沿い |
| 分布 | 北海道南部〜沖縄、伊豆諸島、小笠原諸島、韓国、台湾、中国、東南アジア、太平洋諸島、オーストラリア |



参考文献
Cousins, M. M., Briggs, J., Gresham, C., Whetstone, J., Whitwell, T. (2010) Beach Vitex (Vitex rotundifolia) : An invasive coastal species. Invasive Plant Science and Management, 3. pp. 340-345.
石田弘明、鐡慎太郎(2019)小笠原諸島父島の海浜に分布する国内外来種チガヤの優占群落。人と自然、30. pp. 101-108.
磯田 進 「ハマゴウ」 in 「公益社団法人日本薬学会ウェブサイト 今月の薬草」 https://www.pharm.or.jp/yakusou/2023/01/post-115.html (2026年7月11日閲覧)
宮城県環境生活部自然保護課(2026)「ハマゴウ」in『宮城県の絶滅のおそれのある野生動植物2026(宮城県レッドデータブック2026)』p. 228.
中村 剛、國府方吾郎、佐藤 謙(2020)新産地報告 北海道におけるハマゴウ属(シソ科)の初記録。植物地理・分類研究、68(1), pp.55-57.
中西弘樹(2020)「ハマゴウ」in『フィールド版日本の海岸植物図鑑』トンボ出版 p.46.
澤田佳宏、津田 智(2005)日本の暖温帯に生育する海浜植物14種の海流散布の可能性。植生学会誌、22, pp. 53-61.
島田直明(2025)「ハマゴウ」in『いわてレッドデータブック 岩手の希少な野生生物(2025年版)』岩手県環境生活部自然保護課 p. 102.
米倉浩司(2016)「ハマゴウ属」in『改訂新版 日本の野生植物 5』大橋広好・門田裕一・邑田仁・米倉浩司・木原浩 編著、平凡社 pp. 107-108.
米倉浩司・梶田忠 (2003-) BG Plants 和名-学名インデックス(YList),http://ylist.info(2026年7月11日閲覧)
書いた人

こんにちは。神田外語大学で環境科学と生物学を教えている飯島明子です。学生のころ巻貝の調査で通った式根島に、また訪れるようになりました。島での私のあだ名は「シッタカの姉ちゃん」(磯にすむ小さな巻貝を島ではシッタカと呼びます)。式根島の生き物を紹介しています。

